「マンデリン!ありますか?」
「マンデリン!飲んでみたい!」
「マンデリン!予定はありますか?」
山王珈琲焙煎所がオープンして、2024年7月9日で1年が経ちました。
コーヒー豆の焙煎は慣れたけれど、コーヒー豆の種類には疎いままです。
私たち山王焙煎所のモットーは、
- 栽培中、農薬・化学肥料不使用豆を扱う
- 農家、生産してくれる労働者が持続可能なフェアトレード認証のコーヒー豆を使う
- 冷めても美味しいコーヒー
安心、安全。
生産者を守る。
そして、美味しいコーヒーであれば、コーヒー豆の種類に拘ることはありませんでした。
そんなとき、NPO団体の仲間から依頼されました。
「『【有機JAS認証】インドネシア マンデリンG1』のコーヒー豆、焙煎してくれない?」
これまでも、お客様からマンデリンの要望が多かったので、その依頼を受けることにしました。
JAS認証のマンデリンの生豆の仕入れ価格は、一般的なスペシャリティーコーヒーの約2倍です。
それでも躊躇なく購入し、届く日を楽しみに待ちました。
ところが購入したあとに大事件が…
60kgの麻袋を開けてみると、ちゃんとした形の生豆が一つも見当たらないのです。
1.特別なコーヒー豆「マンデリン」
物語の始まりを整理します。
インドネシア産のJAS認証の特別なコーヒー豆「マンデリン」の生豆を仕入れました。
それは、当焙煎所のオープン1周年を記念した新しいイベントでした。
高品質で知られるインドネシア産のJAS認証を受けたマンデリンの生豆。
さらに、商品説明には「ダブルピック」と記されていました。
ダブルピックとは、生豆を2度にわたり手作業で選別する工程のことです。
私たちのような小さな焙煎機しか持たない焙煎所では、焙煎前にハンドピッキングで欠点豆(虫食い豆・割れ豆)を取り除きます。
欠点豆の割合は、最悪でも10%。管理された豆なら、約1%~2%です。
そして、ハンドピッキングの時間は、約2 kgのコーヒー豆で30分前後かかります。
JAS認証のマンデリンが届き、大きな期待に胸を膨らませながら開封しました。
2.当焙煎所の平均の10倍以上の欠点豆
ところが、現実は甘くありませんでした。
早速ハンドピッキングを始めると、予想外の事態が待ち受けていました。
虫食い豆、割れ豆が想像以上に多く、1.5 kgの生豆のうち、なんと644.5gもの欠点豆が出てしまいました。
当焙煎所史上最悪の数値。43%が欠点豆という結果でした。
しかも、本来行っている通常のレベルで選別すると、欠点豆の割合が50%を超える事態だったのです。
瞬間、心には不安がよぎりました。
「この豆で美味しいコーヒーになるのかな?」
「問屋さんに騙されたのかなぁ…」
コーヒー豆の問屋さんに確認しました。
すると、丁寧なメッセージが返ってきました。
山王珈琲焙煎所
椎名 様
お世話になります。
〇〇〇〇〇〇〇〇株式会社総合窓口でございます。
この度はお問い合わせ頂き誠にありがとうございます。
お届けいたしました商品については、実際の欠点の状況や割合などをこちらでは確認できかねますので何とも申し上げることが難しい状況でございますが、割れ豆に関しましてはマンデリンはその精製方法の特徴上、珍しい事ではございません。
また虫食いにつきましても、有機JAS認証取得のための管理においては、比較的虫がつきやすいとされております。
そのため、いただいております情報のみでは稀なケースではない、というのが正直なところでございます。
つきましては、一度焙煎してご判断いただけますと幸甚に存じます。
何かご不明点などございましたら遠慮なくご連絡ください。
よろしくお願い申し上げます。
こんな丁寧なメッセージをいただきながら、私は、欠点豆の写真を添付して再度メールを送りました。
〇〇〇〇〇〇〇〇株式会社
総合窓口様
ピッキングして取り除いた欠点豆の一部です。
約40%がこの状態です。
何かの間違いではありませんか?
椎名
すると、さらに真摯的なメールが返ってきたのです。
山王珈琲焙煎所
椎名 様
ご連絡いただきありがとうございます。
お写真を拝見した限りですと、この原産国、商品輸入規格のレンジ内ではある状態かと推察致します。
先にも申し上げた通り、貴社の言う割れ豆と推察されるほとんどが水分が多い状態での脱穀というインドネシアの精製方法の特徴上通常に発生するものでございます。
貴社の設定する基準とシッパーの基準にギャップがあることは弊社としては理解致しました。
ただし、本商品がJAS認証を取得し現地の輸出入規格を満たしていること、各社(ロースター)基準と国際輸出入規格が異なることはご理解いただく必要があるかと存じます。
また本商品は長年にわたり、日本の大手、中堅ロースター様にも多くの納品実績(数十トン/月)があり、各ロースターの品管部門の品質検査を通っている履歴がある商品となります。
実際、今年度において、品質において返品実績や品質に関するクレームはなく(運送に絡むものはありましたが)、例年の品質レンジに収まっているという判断の一因となります。
最終的にはロースター様の基準とシッパーのギャップという点に帰着するかと存じます。
初回ということもあり、今回に限り、返品交換を承りますがいかがでしょうか。
誠に恐れ入りますが、お客様のご都合となるためその場合、規則の通り、キャンセル諸費を申し受けます。
私は反省しました。
私の知識不足だったのです。
〇〇〇〇〇〇〇〇株式会社
総合窓口様
担当者様。
ていねいに対応していただき、ありがとうございます。
JAS認証のマンデリンとは、そういうものと知りました。
ありがとうございました。
いい勉強になりました。
そうであれば、一所懸命にピッキングして焙煎します。
担当者様
私どもの面倒な問い合わせに対して、真摯に対応していただいたこと、深く感謝申し上げます。
そして、お時間を取らせてしまったことを、お詫び申し上げます。
引き続きよろしくお願いします。
山王珈琲焙煎所
椎名
「問屋さんを信じよう!」と思いました。
通常1時間で終わるピッキングに3時間かけました。
家族にも手伝ってもらいました。
そして、いつも以上に慎重に焙煎しました。
するとこのように、焼きむらなく仕上がりました。
(写真では蛍光灯の関係で焼きむらがあるように見えてしまうかもしれません)
3.さすがマンデリン!
出来上がったコーヒーを一口飲んだ瞬間、不安が払拭され、今までの苦労が報われました。
香ばしい香りと濃厚な味わいが口の中に広がり、まさに至福のひととき。
さすが!マンデリンは美味しい!
この一杯は、これまでで最高のコーヒーの一つになりました。
当焙煎所では、コーヒー生豆を深めに焙煎します。
生豆を焙煎すると約20%の水分が蒸発します。
仕入れた60kgの生豆は、当焙煎所基準のピッキングで約40%の24kgが欠点豆で使えません。
残りの36kgを焙煎すると、20%が蒸発します。
そして、試飲用を考えると商品として売れるのは18kg。
一袋100g入りで180袋です。
手間暇考えると、かなり高価な商品になってしまいます。
マンデリン。
高い商品原価です。
それ以上に、一般的なコーヒー豆の数倍の労力を必要とする、エレガントでわがままなコーヒーです。